大阪市港区の地域運営の「仕組み」を作られた前港区長の田端尚伸氏に、前回に引き続き、お話を伺います。前号では港区のプロフィールについて、今号ではその【強みを活かす】こと、【横糸と縦糸】のアプローチについてもお聞きしました。
インタビュー
Q2 港区でも地活の発足には、戦後の地域活動を担ってきた地域振興会などから激しい反発が
あったと察します。どのように地活の設立や事業展開をなされたのですか?
新しい市政改革で大阪市が示した自律的な地域運営の姿、これには地域は大変驚きました。
まず、「地活」という制度が理解できません。長年、市内のほとんどの地域で地域振興会(以下、地振)や地域社会福祉協議会(以下、地域社協)が地域活動の主体となってきました。
「地活」は地振よりも「上」なのか?地域社協とどう違うのか?今までの補助金はもらえないのか?というところから始まりました。
PTAや商店街なども含めて地域団体の運営は区役所が事務局的に手伝い、その活動には補助金を充てるということは、地域にとっても行政にとっても当然のことだったのです。
『実行力』橋下徹著、PHP新書、2019年5月刊(135ページ)
僕が市長のときに、各区長に対して、特定の地域団体の具体的事務を区役所が肩代わりするこれまでの慣例は改めるよう方針を出しました。
大阪市役所は各地域団体と密着しすぎているところがあり、特定の市長の選挙戦を各地域団体がサポートすることの見返りに、市長・市役所・区長・区役所は各地域団体に配慮するという仕組みが強固に出来上がっていました。そうした関係を改めるためです。
「地活」とは何か、なぜ形成していただく必要があるのか。
何度も地域に出向き、繰り返し説明しました。
しかし、地活の説明以前に、各地域団体への補助金が一括補助金になることで団体が自由に使えなくなること、区役所が地域団体の事務局的なサポートをやめると自分たちで会計事務や会議資料の作成などをしなければならないことに対しての反発や不安が極めて大きく、地活についての理解をいただくには程遠い状況でした。
住民説明会の後、居酒屋へ場所を移し、夜中の3時まで話し合いを続けることもありましたが、理屈として地活を理解していただいたということにはならなかったと思います。
平成24年8月に公募区長として引き続き就任した後、その年の秋から冬にかけて、行政に協力的な港区でも、地域との関係がある種の混乱状況になりました。私だけではなく、市民協働担当を中心にそれぞれの職員が地域の皆さんの矢面に立ち、「これ以上混乱しないように」と願いながら、少しでもご理解がいただけるよう懸命に説明に努めた時期でした。
当時は、区役所が公募する「区民センターの指定管理」、区民まつりなどの「コミュニティ振興事業」、「地活の中間支援(まちづくりセンター。以下、まちセン)」の受託事業者は港区では全て大阪市コミュニティ協会(以下、コミ協)でした。
偶然にも区民センターの館長とは旧知の仲、地活形成時のまちセンのアドバイザーは、コミ協職員として港区のコミュニティ事業に関わってきた金子さんでした。
大阪市の地域に対する大変革について、その意味や必要性などを私からお二人に機会あるごとに説明し、地域からの意見や反発などについては三人でいつも話し合い、それぞれの立場・距離感で地域と真摯に向き合ったと思います。
従前から、港区では、区民センターの指定管理とコミュニティ振興事業はコミ協が受託していましたので、地活の形成や補助金の変更など市政が激変する中においても、まちセンを同じコミ協が受託し、アドバイザーが地域からの信頼の厚い金子さんだったことや、私もいきなり公募区長として就任したのではなく、その前から約2年半区長を務めていたことで、区民の不安感がいくらか軽減されたのかもしれません。
また、大阪市全体の方針だから受け入れざるを得ないということもあったと思いますが、結果的に港区では平成25年3月までに全11地域で地活協を形成していただきました。
田端氏的アプローチ 【強みを活かす】
橋下市政の下で公募区長への関心は高く、独自性のある施策が期待され、住民票の宅配を始めたり、区長の個性を前面に出す区もありました。
正直、そのような動きも気にはなりましたが、私は極めて地味ですが、「つながりの強さ」という港区の「強み」を活かして、安全・安心の分野で「子ども」や「防災」をキーワードにして区民主体の取り組みを持続させていくことができないかと考えました。
田端氏的アプローチ 【横糸と縦糸】
地域では実に様々な地域活動がなされています。そして、そこはマネジメントのない世界です。
子ども会、女性会、PTAなど各団体が、同じ「地域」というフィールドでそれぞれの思いで、それぞれの活動を展開しています。
区長としてだんだんと地域活動の全体像が分かってくると、それぞれの地域活動が、それぞれの地域の「防犯」や「防災」などの実情に応じた活動になっていれば、地域の皆さんが地域活動にかける膨大なエネルギーが、地域のためにより報われるのではないか、と思うようになりました。
どうしても行政マンですので、地域活動をそれぞれの地域ごとに、系統的に捉えようとしたのかもしれません。区役所は予算を編成する際などには、防犯や防災、子育て支援など区の施策や事業を系統立てて考えます。
私は、区役所の施策、事業と各地域の地域活動を有機的に連携させることができないか、と強く思うようになりました。
福祉・防犯・防災「5ヵ年基本計画」
港区全体の福祉・防犯・防災の基本計画を区役所で作成したうえで、基本計画だけでは絵に描いた餅で実行できないから、各地域でそれぞれの分野の地域計画を作っていただき、区の基本計画を「横糸」に、各地域の地域計画を「縦糸」として、横糸と縦糸が交わる安全ネットを作りたいと考えました。
結果的に、港区全体の福祉・防犯・防災の5ヵ年基本計画を区政会議の意見などを踏まえて、港区の地活が全地域で形成されたのと同じタイミングの平成25年3月に「横糸」として策定しました。
福祉計画については、幸いにも、区社会福祉協議会も全面的に関わっていただき、各地域で地域の皆さんとミーティングを重ねて平成25年度中に、防犯、防災計画については平成26年度中に、「縦糸」となる地域計画を全11地域で策定していただきました。
地域計画の策定は、各地域とも地活として検討していただきましたので、もちろん、まちセンにもサポートいただきました。
したがって、港区の地活は、立ち上がった直後から地域課題として福祉・防犯・防災の問題を考えるという、非常に難度の高いところからスタートしたのです。おそらくこの時点では地域はまだ地活について十分に理解できていなかったと思います。
全地域で横糸と縦糸が交わるまでの約2年間、私は、様々な行事で機会あるごとに、繰り返し、縦糸の形成を呼びかけました。区長の挨拶はいつも「横糸と縦糸」やな、と言われたことも(笑)。
それを聞いて、港区の「強み」である「つながりの強さ」の中に、区役所も「横糸」としてちょっぴり入れたのかな、と思いました。
今でも、地域計画は各地活で改編・更新を続けていただいているとのことですので、「横糸と縦糸」は自律的な地域運営を促す「仕組み」として機能していると思います。(つづく)
取材・文:梶原千歳
イラスト:阿竹奈々子
【港区コミュニティを科学する②】2 横糸と縦糸
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