大正区まちづくりセンターのアドバイザーに大正区のまちづくりについてインタビューしました。
水田正興 みずた まさおき
大正区まちづくりセンター アドバイザー
平成17年一般財団法人大阪市コミュニティ協会に就職。
阿倍野区民センター、平野区民センター、生野区まちづくりセンター支援員を経て平成26年より現職。
大正区の歴史
ここは「難波八十島」といわれる干潟地帯でしたが、江戸幕府が新田開発を奨励し、盛んに農地が造られました。明治以降も大阪築港計画により埋め立てが続き、紡績工場や造船所が建設され、阪神工業地帯として発展しました。水の都と言われる大阪ですが、大正区には今でも渡船場が7ヵ所あり、生活に欠かせない足となっています。
Q 今、特に力を入れていることは何ですか?
防災です。大正区は、大阪湾と川と運河に囲まれた「島」のような地形と言えます。過去には台風等による高潮で大きな被害を受けました。地震や液状化が発生する恐れがあり、海溝型地震である「南海トラフ」が起これば、約2時間で津波の到達が予想されます。
まちセンの事務所は区役所にありますが、区より今年度からまちセンに防災士を置くように要望がありました。幸いスタッフの一人が防災士の資格を持っていたので、慌てることなく対応できています。
まちセンでは「まちづくり勉強会」を年に4回ほど開催しています。秋の防災訓練を控え、9月には防災士で支援員の森さんが中心となって「HUG」という避難所開設訓練ゲームを使って勉強会を行いました。10月には地域に呼ばれ、防災リーダー等25名を対象にHUGを実施しました。
HUGとは?
避難者の年齢や性別、国籍やそれぞれが抱える事情が書かれたカードを、避難所の体育館や教室に見立てた平面図にどれだけ適切に配置できるか、また避難所で起こる様々な出来事にどう対応していくかを模擬体験するゲームです。
プレイヤーは、このゲームを通して災害時要援護者への配慮をしながら部屋割りを考え、また炊き出し場や仮設トイレの配置などの生活空間の確保、視察や取材対応といった出来事に対して、思いのままに意見を出しあったり、話し合ったりしながらゲーム感覚で避難所の運営を学ぶことができます。
HUGは、H(hinanzyo避難所)、U(unei運営)、G(gameゲーム)の頭文字を取ったもので、英語で「抱きしめる」という意味です。避難者を優しく受け入れる避難所のイメージと重ね合わせて名付けました。
静岡県HPより
また、支援員の堀さんは「OSAKA防災タイムアタック!」の使い方講座を開きました。これは、地震発生時に命を守る方法を学ぶ防災ゲームです。堀さんはNPOサービスグラント関西支部のメンバーであり、ハンブルク青少年消防団との交流事業を行う大阪市青少年国際交流協議会の事務局長でもあります。
12月には今年も大正区の全ての「地活」が揃う「まちづくり活動見本市」を実施します。各地活の発表に加えて、真備町出身(岡山県)で支援員の丸山さんが昨年の西日本豪雨について語る予定です。
各地域が行っている子育てサークルや宿題カフェ、女性学習会などでも、プログラムの中に、防災クイズやゲームなどを取り入れてもらっています。定期的に行われる事業では「来月は何をしよう」と地域の方が悩まれることがあります。そんな時に地域担当の支援員が「防災をテーマにこんなことができますよ」と提案しています。
先述の「まちづくり勉強会」では、支援員が持ち回りでプロジェクト・リーダーとなり、それぞれの得意分野を発揮した企画運営をしています。
例えば、行政書士の丸山さんは「終活」を切り口にした地域事業の継承について、民間で情報誌を手掛けていた向井さんは「広報」について。支援員は皆な多才なので、地域に役立ちかつ彼ら自身もやりたいことを実施するようにしています。
Q 今までで一番評価できることは何ですか?
まちセン開設時から年1回続けてきた「まちづくり活動見本市」が、地域主体になってきたことです。
見本市では各地活が1年間取り組んできたことを発表してもらうのですが、初めの頃は支援員が地域の方から写真やデータをもらって発表資料を作成していました。そのうちに「この人、パソコンできるで」と地域の方がいい人を見つけてこられるようになりました。
「毎年、毎年、もう話すネタないねん」と言われながらも、「今年は福祉のことを田中さんに話してもらおうと思うわ」と考えられています。
ある地活では発表は毎回新しい担い手にしてもらうと決められています。地域行事に初めて関わった人が話すことで、それまでになかった視点で事業を見られるようになるからだそうです。また、新しい方を応援しようと地域の方々がたくさん応援に来られています。
他区の方をゲストに呼んで成功事例を話してもらったこともありましたが、「よそのこと聞いてもなあ」と参考にしてもらえず、区内の全10地活の発表に切り替えました。
意外と隣の地活が何をやっているか知らないもので、「あそこができるなら、うちもできるかも」といい相乗効果が生まれています。
どの地活でも「ふれあい喫茶」という誰でも参加できる喫茶事業があるのですが、3~4地域に見本市へ出店して頂いたこともあります。
「他地域のふれあい喫茶の内容が気になるけど、やっぱり行きにくい」ということで、見本市で実際に普段の喫茶を再現してもらってメニューを見比べたり食べ比べたり、和やかな雰囲気で情報共有しました。
今年で7回目となりました。
成果に派手さはないですが、地道に継続してきたことで小さな変化が現れてきました。過去には「また今年もやるのか、朝から夕方まで長いわ」と怒られ、お茶やお菓子も出さず2時間に短縮して開催したこともあります。
そうすると今度は「せっかく来たのに、あっという間で張り合いがないわ。なんや、もう止めるつもりか?」という声が上がります。「まちづくり活動見本市」は大正区の恒例行事となったのだと思いました。これからも続けていくつもりです。
見本市の他に、地域の行事で評価できることと言うか、良い取り組みは南恩加島まちづくり実行委員会が実施する「キャンドルナイト」です。「大阪市市民活動総合ポータルサイト」に詳しいですが、地域が民間助成金を活用して自主運営しているイベントです。
ママさんたちが出店するマルシェも実施して収益を生んだこともありました。地域活動は補助金で実施するものという考えが長かったなかで、自主事業に取り組まれていることは大正区のモデルだと思います。
おまけ
区民センター勤務からまちセンへの異動を希望されたんですか?
― そうです。僕は“楽なこと”と“しんどいこと”の選択肢があれば楽な方を選ぶタイプですが、異動を希望したのは妻に背中を押されたからです。新しい人、面白い人に出会えることは仕事の楽しみです。
職場で大切にしていることは何ですか?
― “笑い”ですかね。職場の環境作りには欠かせません。
ご趣味は?
― 潮干狩りです。三重県の浜へ行っています。ハマグリのシーズンは3月~9月まであるんですよ。無心になれて、食料にもなって、しかもタダ。こんなにいい遊びはないですね。
水田さんはどんな人ですか?
― 曲がったことが嫌い。でもそういう面を見せないんですよね。たぶんシャイ。(Hさん)
― 分かっていても敢えて口にしなかったり。良い意味で場の雰囲気を読んで自分の立ち位置を変えて、いつもどこか演じているような。良い意味で(笑)。(Sさん)
取材・文:梶原千歳
イラスト:阿竹奈々子
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